朝鮮学校生徒の学ぶ権利の保障を求める研究者声明

朝鮮学校生徒の学ぶ権利の保障を求める研究者声明

 

兵庫県知事 井戸敏三

 

 わたしたち研究者有志一同は兵庫県に対し、朝鮮学校生徒の学ぶ権利を保障するために、下記のことを強く求めます。

 

1 「外国人学校振興費補助」の減額を速やかに撤回すること

2 幼児教育・保育無償化制度から朝鮮幼稚園を含む各種学校を除外したことについて、国に改善を要請し、県として支援策を講じること

 

 

1 「外国人学校振興費補助」の減額について

 2018年11月、朝鮮学校に対する補助金が大幅に減額されたことに抗議し、改善を求める声明文を、374名の研究者の賛同を得たうえで、兵庫県に提出しました。そこでは、補助金減額措置が主に以下の5つの理由から不当であると指摘しました。

 

①民族教育権を認めないばかりか、それを日本の教育よりも劣ったものと位置づけ、「外国人学校振興費補助」の意義をみずから否定する、矛盾に満ちたものである。

②2016年3月29日に送付された文部科学大臣通知を踏まえた判断であり、国家による教育への不当な干渉を許容し、地方公共団体の権限をみずから放棄したものである。

③日本の朝鮮侵略・植民地支配を背景に、日本に定住せざるを得なかった在日朝鮮人の子孫が、朝鮮人としてのアイデンティティを形成するために設立された学校であることを無視したものである。

人種差別撤廃条約子どもの権利条約などの、人権に関する国際基準に照らして、極めて不当なものである。

⑤昨今の朝鮮半島をめぐる情勢進展に逆行し、なおかつ排外主義を追認・助長するものである。

 

しかし県は、「外国人学校振興費補助」に「教員の2/3以上が日本の教員免許を所有すること」という新たな交付基準を設け、朝鮮学校6校への補助金を従来の約2分の1に削減する方針を、2019年度も変更しませんでした。

なお、県はその「補填策」として、以下の二つの事業を実施することを通達しました。

 

①「私立学校における特色教育等への支援の充実強化」を目的として、従来私立学校のみ適用されていた補助金専修学校各種学校にも適用する。

②PRの取り組みに対する支援として「外国人学校多文化共生推進事業」の支援をする。

 

しかし、これらの事業は、臨床心理士などのカウンセリングや食育活動、「外国人学校フェスティバル」の開催等、極めて限定的な場面にのみ適用されうるものであり、「外国人学校振興費補助」の本来の趣旨とは全く異なるものです。また、「外国人学校振興費補助」の削減額が4000万円以上にのぼるのに対し、この「補填策」では一校につき最大で100万円程度の補助にしかならず、実際には質的にも量的にも、補填策としてほとんど意味を成さないものであると言わざるをえません。

以上のような理由から、わたしたち研究者有志一同は、当事者や市民からの多数の抗議の声があるにもかかわらず、差別的施策を放置したことを批判するとともに、速やかな補助金支給の再開を求めます。

 

2 幼児教育・保育無償化制度から朝鮮幼稚園を含む各種学校を除外したことについて

 近年、政府による朝鮮学校に対する弾圧はますます加速しています。高校無償化・就学支援金制度からの朝鮮高級学校の排除は、明らかに政治・外交的理由によるものであり、憲法第14条、子どもの権利条約人種差別撤廃条約等の国際法、さらには教育の機会均等の確保という制度そのものの理念に反するにもかかわらず、政府は差別を是正することなく排除を継続しています。また、今年度スタートする幼児教育・保育無償化制度からも、各種学校は「多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しない」という、法的根拠のない理由により除外されることが決定しました。

兵庫県では、阪神・淡路大震災という未曽有の危機に際しても外国人県民の存在を考慮した互助や協働の取り組みが数多く行われ、またその教訓は「ひょうご多文化共生社会推進指針」に引き継がれ、現在も県の施策の基本方針となっています。各種学校排除の理由とされている「多種多様な教育」は、兵庫県にとってはむしろ積極的に推進されるべきことであり、いまこそ多文化共生を標榜する自治体としてのあるべき姿を全国に示すべきではないでしょうか。

この問題の根本的な原因は、国の差別的姿勢にあります。しかし、県が国の方針を無批判に追認し、地方公共団体の権限で可能な措置を検討すらしないのは、これまでの兵庫県の取り組みを反故にするものであると言わざるをえません。「幼児教育類似施設」に対して、国は地方自治体と協議のうえ、無償化に準ずる支援を行うことが検討されていますが、県は朝鮮幼稚園についても同等の支援を行うことを国に要請すべきです。また、国によって必要な措置が取られなかった場合においても、県独自の支援策を講じることは可能なはずです。

わたしたち研究者一同は、兵庫県に対し、幼保無償化除外問題を国政の問題だからと放置するのではなく、自治体として何ができるのかを真摯に議論し、必要な措置を講じることを求めます。

 

 

70年前の1949年10月、当時の政府は二度目の朝鮮人学校閉鎖令を下し、「阪神教育闘争」の末に守り抜かれた朝鮮学校を消滅の危機に追い込みました。国と地方自治体が一体となって朝鮮学校を弾圧する現在の状況は、70年前の光景を彷彿させるものです。また、朝鮮学校と生徒に対するヘイトスピーチヘイトクライムも後を絶ちません。

民族の言葉や文化、歴史を学び、在日朝鮮人としてポジティブなアイデンティティを形成するために朝鮮学校に通う生徒たちが、なぜ在日朝鮮人であることを理由に、直接的な暴力のリスクと隣り合わせの生活を送らなければならないのでしょうか。わたしたち研究者有志一同は、当時の状況を回帰させてはならないという強い思いのもとで、兵庫県朝鮮学校生徒の民族教育権を保障することを求めます。

 

以上

 

朝鮮学校生徒の学ぶ権利の保障を求める研究者声明賛同人一同