抗議声明文

朝鮮学校に対する兵庫県の不当な補助金減額に抗議する研究者有志の声明

 

 20182月、兵庫県は県下の外国人学校へ支給してきた「外国人学校振興費補助」に「教員の2/3以上が日本の教員免許を所有すること」という新たな交付基準を設け、外国人学校12校中これを満たさない朝鮮学校6校への補助金2分の1に大幅削減することを一方的に兵庫朝鮮学園へ通達しました。わたしたち研究者有志は、この兵庫県の措置が、朝鮮学校のみを狙い撃ちにし、朝鮮学校へ通う子どもたちの学習権や民族教育の意義を真っ向から否定するものと捉え、強く抗議します。

 兵庫県は「外国人学校振興費補助」の目的を「外国人学校に在籍する生徒等の修学上の経済的負担の軽減を図り、もって外国人学校教育の運営に資する」こととしています。しかし、2014年度には、「国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けていること」または「日本の検定教科書を使用」することを補助金支給の要件とすることで、朝鮮学校のみが8分の1の減額対象になりました。また、2017年度には、「割合が変更になった」との理由で、突如として減額幅が5分の1に引き上げられました。今回の措置はこうした流れをさらに加速させたもので、「優れた学習環境を提供」する学校の指標として上記のような教員免許に関する要件を追加し、朝鮮学校に対する補助金大幅削減措置を取ったのです。これにより、2017年度と比べて2900万円、本来支給されるべき補助金から考えると、実に4600万円が削減されたことになります。

 「外国人学校振興費補助」の目的を「外国人学校教育の運営に資する」こととしながら、あたかも日本の教育に倣うことが「優れている」とするような要件改悪は、兵庫県が民族教育の意義を認めないばかりか、日本の教育より劣ったものであると考えている証左であり、「外国人学校振興費補助」の意義をみずから否定する、矛盾に満ちた措置であると言わざるをえません。

 兵庫県は、今回の補助金大幅削減措置が、2016329日に朝鮮学校をその区域内に有する28都道府県知事宛てに送付された文部科学大臣朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」(27文科際第171号)を踏まえた判断であることを明言しました。この文科省通知は、日本政府による朝鮮民主主義人民共和国に対する一連の「制裁」に関わる措置の一環として出されたものですが、これは教育への政治の不当な干渉であるだけでなく、各地方公共団体の自主的な判断に委ねられているはずの補助金制度に対する不当な介入・圧力でもあり、文科省自身も「停止・減額を促す意図はない」と弁明するほどの異例の通知でした。兵庫県がみずからこのような通知の影響を明言したことは、上記の教員免許に関する新たな要件が、朝鮮学校のみを狙い撃ちするために設けられたものであると認めたといっても過言ではありません。また、地方公共団体の権限をみずから放棄したという点も決して看過できません。

 朝鮮学校は、日本の朝鮮侵略・植民地支配を背景に、日本に定住せざるを得なかった在日朝鮮人の子孫が、植民地期に奪われた民族の言葉・歴史・文化を取り戻し、朝鮮人としてのアイデンティティを形成するために設立された学校です。したがって日本は、植民地支配の清算と戦後補償の観点から、在日朝鮮人による民族教育権を保障する責務を負わなければなりません。しかし、政府は権利を保障するどころか、戦後一貫して直接的な弾圧を加えてきました。兵庫県は、このような政府の方針に同調することなく、朝鮮学校の民族教育を保障する姿勢を示すべきです。それこそが、文化的寛容性を自負し、「多文化共生の力」を県の強みとして謳う、兵庫県のあるべき姿であると考えます。

 また、今回の措置は、日本国が批准する国際人権規約人種差別撤廃条約及び子どもの権利条約が禁止する差別に相当するものです。20148月の国連人種差別撤廃委員会においても、地方公共団体における朝鮮学校への補助金の凍結もしくは継続的な縮減について懸念が述べられているところであり、国際基準に照らしても、今回の措置が極めて不当であることは明白です。

 最後に、今年開かれた南北首脳会談と米朝首脳会談に象徴される朝鮮半島をめぐる情勢の急激な展開は、これまでの敵視と圧力一辺倒の対「北朝鮮」政策の見直しを要請しているのではないでしょうか。朝鮮学校への補助金削減は、こうした流れに逆行する時代錯誤的なものであると言えるでしょう。また、国を挙げての      「北朝鮮」敵視政策は、ヘイトスピーチの横行にみられるような昨今の排外主義的風潮を誘発してきました。その意味では、今回の県による措置は、排外主義を追認・助長するものでもあります。

 わたしたち研究者有志一同は、以上の理由から、兵庫県による今回の措置に強く抗議するとともに、一刻も早く朝鮮学校へ適切な補助金支給を再開することを求めます。